なるほどコメディ 12月12日
『カメラを止めるな!』 漸く見ました、DVDで。
夏頃、どうしてもスケジュールんが取れず、やっと取れてみると二時間前から並んで
くださいと言われ、仕方なくdVdが出るのを待っていたのでやんす。
面白いコメディでした。
今更ボクが言うこともありませんね。
ただ一つ驚いたことが。
面白かったんですが、この手の話、舞台ではいっぱいありまっせ。
つまり大感激のコメントを自身のブログやツイッターに出している有名人の方々、
舞台のコメディをご覧になっていなかったのですね……( ´∀` )
ここからはネタバレありです。気を付けて。
人間喜劇、人情喜劇は外しますね。
てか、『カメラを止めるな』は舞台でいう劇中劇コメディに当たります。
〈劇中劇コメディ〉というのはボクの造語です。
その前に〈本番失敗劇〉という舞台の分野があります。
あ、これもボクの造語ですので。
たとえば、彼女にプロポーズする。出世のため上司を接待する。
そのため用意万端整えて、いざ本番となると、
想定外の出来事や招かれざる客によって、場が無茶苦茶になっていく。
主人公たちは何とかしようと悪戦苦闘。なのに余計ボロボロになっていく。
たとえば、よしもと新喜劇で辻本茂雄クンが座長の時、誰かの恋を成就させるために
稽古をして、いざやると、無茶苦茶になるお馴染みのパターンがあるでしょ。「許し
てやったらどうや」の有名なセリフの場面ですね。
あれが本番失敗劇の典型です。
ボクもいっぱい書いてます。
特に印象に残っているのが、堺正章さんの明治座公演に書かせていただいた
『ねずみ小僧危機一髪!』です。
ねずみ(堺さん)は、ワルの商人から金を盗むために、仲間の女スリを女中として
潜入させる。彼女から夜の警備の様子の報告を受けながら、舞台上では堺さんの
ダミーのねずみが、見事に千両箱を鮮やかに盗み出す。それをお客様に見せた後、
本物つまり堺さんがやってみるも、予想外の出来事がどんどん起こって、最後は
蔵の扉に首をはさまれてジ・エンド。その時堺さんが発したアドリブ台詞「セコ
ムしてますか!」。お客様、大爆笑でした。
さて。
ボクが勝手に呼んでいる〈本番失敗劇〉で一番効果的なのが、お芝居の本番を描いた
芝居ですわ。これをボクは〈劇中劇コメディ〉と呼んでいるわけです。二つも勝手に
造語をしてしまいました。( ´∀` )
では、劇中劇コメディにはどんなパターンがあるか。
この場合、登場人物の内蔵する人間関係や、設定の深刻さ等々は省きますね。純粋に
ドタバタの笑えるファルスの部分だけで申し上げますね。
まず、劇中劇コメディである限り、本番つまりステージ上が登場します。
『カメラを』の場合は、前半の30分の撮影中のカメラを通しての場面ですね。
ステージ上を今〈表〉とします。それに対し観客の目に映る場面以外を〈裏〉と
しますね。舞台の袖や、『カメラを』の後半の撮影風景ですね。
すると、大きく分けると二つの分かれます。
Ⓐ 表だけで裏は出ず、つまりいきなりの本番のみですね。この場合は当然、表
がボロボロになります。
『the play that gone wrong』を構成作家のオークラ氏が翻案した
『九条丸家の殺人事件』とその続編『リメンバーミー』。
更に劇中劇コメディが本筋ではないため、途中の一場面にしか出ま
せんが、『バッファローの月』や『メイム叔母さん』の一場もこれ
に当たります。
Ⓑ 表も裏も出るもの。
Ⓑにはさらに二つがあります。
㋐表はちゃんとしているもの。
これは表がちゃんと見えるだけで、実は裏は大変な苦労をしている
という訳ですね。『カメラを』はこれに当たります。
更にマイケル・フレインの名作『ノイゼスオフ』はまずボロボロの
表の稽古風景を見せ、次にちゃんとしている表の本番を見せ、最後
にその大変な裏を見せるという構成になっています。この舞台は
『カーテンコール・ただいま舞台は戦闘状態』というタイトルで映
画になっています。
ただ『カメラを』と『ノイゼスオフ』が違うのは、『ノイゼスオ
フ』が最初から舞台の話と分かって見せるのに対し、『カメラを』
はこれはいったい何なのだと〈?感〉満載で見始めるというところ
でしょ。これがメッチャうまいですね。
劇中劇コメディではありませんが内田けんじ監督の『運命じゃない
人』もこれに当たるような気が……『運命じゃない人』、大好きで
す!
㋑表がボロボロになるもの。勿論裏も大変ですが。
これもいくつかに分類できます。
①まず完璧な稽古風景を見せ、そのあと本番となるが大変なことに。
さっきのよしもとの辻本クンの場合はこれに当たります。
サマセット・モームの小説『劇場』をボクが翻訳・脚本・演出した
一昨年の旺なつきさん主演の『劇場』もこれに当たります。
②まず稽古風景を見せるも、そこで既にトラブル続発。観客にどうな
るのかと思わせて本番に。やっぱり大変に。
三谷さんの『恐れを知らぬ川上音二郎一座』もこれですね。ちなみ
に三谷さんは意外に劇中劇コメディが少ないんですよ。『ショウ・
マスト・ゴー・オン』も劇中劇コメディとは違います。だって本番
中だけれど舞台上が出てきませんでしょ。
NLTでも上演したフランスコメディ『ミントティ? それともレモ
ン……』や今年のボクの『やっとことっちゃうんとこな』もこれで
すね。
映画では名作『ブロードウェイと銃弾』でしょうか。
こんなところかなぁ。
もっとうまい分類分けがあるかもしれませんね。一度ちゃんと考えてみようかなぁ。
とにかく、ね、『カメラを』はすごく面白かったけれど、舞台でコメディをやってる
者には、すごく分かりやすいコメディだったわけですよ。
皆さん、もっと舞台にコメディを観に来てくれないかなぁ。
2018年12月12日