逆算作劇ミステリー 2月7日
朝です。
深夜3時すぎから、仕事の合間に1章だけと思ったら、読了、そして朝。
締め切りが……
さてさて、平成生まれ、鮎川哲也賞作家、青崎有吾クンの
『体育館の殺人』『水族館の殺人』に続く裏染天馬クンシリーズ第3作
『図書館の殺人』です。
1月29日に書いたように、おあずけくろてたもんで、我慢できなくて。
今回も前2作に続き、殺人は1つだけ。
それを大ロジック一本で、長編を優に満たしてくれる
才能あふれた作品です。
ロジックの素晴らしさ、加えて前作でも書きましたがセリフが面白い。
この人、脚本家になっても絶対成功する。それも喜劇が書ける。
とくに、ツッコミセリフの素早さ、的確さは、
その辺のエセコメディ作家よりはるかに上。すごい。
さてさて。
ううーん………
慣れちゃったのかなぁ。
いやいや、作家としてのうまさは向上なさっている。
じゃなぜううーんなんだろう。
1つには、ネタが地味。
1作目の密室や2作目のとんでもない殺人現場ではなく、
図書館で起きる普通の殺人。
勿論、序盤に「え?」と思う謎は出るけれど、直ぐに分かるし。
つまり今回は単純に、〈なぜ被害者は殺されなければならなかったのか?〉と
〈誰が犯人か?〉を追求した作品なんですわ。
勿論テンポある面白い会話、生き生きと描かれる高校生活、お馴染み裏染クンの
キャラ等、楽しみ所は満載ですが、本分であるミステリーの部分は、
ひたすらホワイダニットとフーダニットのみ。
そのシンプルさに、3作目でチャレンジしたということでしょうか。
そう、シンプルで端正。
やるなぁ。
昔々、日舞のお稽古で、ボクは、例えば『道成寺』や『新曲浦島』や『景清』の
ような大曲も、一ト月くらいで上がってました。
それが、名取になることが決まった時、先生が「そういえば『松の緑』やってなかっ
たっけ?」「やってません」「じゃやろう」となって……
『松の緑』は稽古を始めたばかり子供が習うもので、短く単純なものです。
2、3日で終わると思ってました。
それが……3ヵ月かかりました。
「そんな踊りで名取ですって言えるの!」
単純だから、ごまかせない。
装飾がないから、真実の姿しか見せる事が出来ない。
やはり、少し腕がついてくると狙ってしまうのですよ。
やはり、ドヘタな頃にやる踊りは、その頃にやっておくべきなのです。
青崎クンは3作目になってそれを出してきた。
すごいことです。
そしてそれは成功しています。
ただ、もっと派手なものを想像していたものだから、ちょいと拍子抜け。
でも、たった1つの事件だけで、それも密室等の不可能犯罪のような装飾なしで、
ロジック長編一本成立させるやなんて。
やっぱりすごい才能ですな。
ところが同時にものすごい事も浮き彫りになりました。
読み終えて、作りがシンプルでかつ端正であるだけに、どのようにこのお話を
構築していったのかが、はっきりと見て取れるのです。
ボクの推論ですが、ミステリーは逆算でストーリーを考えるものです。
最後に犯人判明があって、そこから逆算していくと、成程、こうやってこうやって
こう物語を構築して、それから頭から執筆なさったんだな、という構成形態が、
今作はホントに手に取るように分かるのですよ。
装飾がない分、(裏染クンを取り巻く高校生の賑やかで楽しい描写はありますが)
余計に、いつも言っている、一本の線が明白で美しく、逆算的作劇法が分かりやすく
なったのでしょうね。
おまけに、あまりに端正なものだから、ボク3分の2あたりで、
犯人分かってもた。
皆さん、勿論ボクも、読むのは頭からです。
ですから今書いたことはあまり関係ありません。
安心して青崎ワールドにハマって下さい。
で、読み終えた後、考えてみて下さい。
作者はどうやってこの話を構築したのか。
お手本の様だと思いますぞ。
お勧めです。
そうそう、青崎クン、3作目が出たところで申し訳ないんやけど、
早よ4作目出してぇな。
絶対楽しみに読むから。
朝がすっかり……
締め切りが……
そうそう、ちなみに『松の緑』ですが、大嫌いです。
振りも曲も記憶から消去しました。念のため。何の念のためや。
2016年2月7日