そろそろ始動 7月26日
父の後始末はまだまだ続いていますが、
とりあえず忌明けし、いよいよ8月の三越劇場の稽古が始まります。
そろそろ日常に戻りつつあります。
父の事で、締切を待って下さっている皆様、執筆に戻りますから。
ご安心を。
今週はそれに先立っての、打ち合わせのラッシュでした。
音楽、音響、セット、そして司葉子さん、星由里子さん………
そんな中、地下鉄やバスの中で、積読の中から小口に読書。
戦前から戦後にかけてのミステリー界の大御所・大下宇陀児大先生です。
ちなみに読みは「おおしたうだる」と読みます。
江戸川乱歩、木々高太郎、そしてこの大下宇陀児の三先生が
日本ミステリー黎明期を支えた三巨頭です。
日本探偵作家クラブ(現・日本推理作家協会)が発足して、
初代、二代、三代会長です。
もう一人の大大大巨匠が横溝正史先生ですが、横溝先生は協会の活動にはあまり
参加されていないようですので。
ボクが初めて大下先生を読んだのは、高校になった頃。
先生ご自身はとっくに亡くなっていましたが、
西脇市図書館に一冊だけあった『鉄の舌』でした。
それと春陽文庫から出ていた『宙に浮く首』と『奇蹟の扉』。
それだけです。だってそれしか出てなかったから。
知名度抜群、何もない………
特に知名度は、まだテレビのなかった終戦後NHKのラジオ番組
『二十の扉』というクイズ番組でレギュラー回答者だったからで
いわゆるタレント作家の<はしり>でもあったからだそうです。
とにかく、戦前戦後と超売れっ子作家だったのに、全集や再版がされず、
手に入らない巨匠ナンバーワンだったのです。
親に聞いても、「大下宇陀児? そんなんどこにでもあるやろ」。ありません。
大学になって、京都から梅田まで出て、かっぱ横丁の古本屋へ行ってもありません。
とある店のオヤジが、
「大下宇陀児? はいはい。ちょっと待ってよ。ええーっと、あら? ないがな!
全集が出てるやろから調べたるわ。ええっと、あら? 何でないねん?」
そんなんでした。
上京して、直ぐに神保町へ行き、必死で探して、見つけました。
今はなくなったとある書店、そこはミステリーの初版本を並べてるお店の一角に、
ずらりと並んだ変色して破れそうな大下宇陀児。でも………
どれも一冊3千円から5千円、高いもので1万円でした。
当時の僕には手が出せず(今でも高いと思いますが)、お金をためては行って
四、五年かけて代表作はほぼ揃えました。
『石の下の記録』(探偵作家クラブ賞受賞作)
『虚像』『誰にも言えない』『岩魂』『柳下家の心理』、そして数々の短編集。
そのうち創元推理文庫から出版された「日本探偵作家全集」の第3巻目、
角田喜久雄先生と二人で一冊の文庫に………ああ、収録されたのは
みんな集めて読んでいた………
そんな中で今だに手に入らなかったのが処女長編の『蛭川博士』と
高校の頃読んだ『鉄の舌』の2冊でした。
それが………
論創社から大下宇陀児集全二冊が出て、それぞれ一冊に長編が一つ。後は短編。
で、一巻目に『蛭川博士』が、二巻目に『鉄の舌』が入ってるのです。
後は全部持ってる短編。
買わなしゃあない。出来たらどっちも一巻目に入れといてくれたら、
一冊で済んだのに。二冊買わなアカン。もう!
で、感想ですが、懐かしい感じやねぇ。
そらそうですわ。『蛭川博士』は昭和4年、『鉄の舌』は昭和12年の作だもの。
今から80年前やん。
それにしてもこの時期の巨匠って、大下先生は九州帝大工学部、
木々高太郎は慶応医学部の教授、横溝先生は薬学出身の薬剤師、
海野十三、甲賀三郎、高木彬光、山田風太郎………
医者や工学博士のオンパレード。
江戸川乱歩先生以外みなさん理数系って。やっぱりミステリーはそっちなんですね。
2013年7月27日