フレンチミステリー三題 11月24日
フランスのミステリーにはいわゆる本格物が少ないと言われています。
事実ですな。
今から100年以上も前に、モーリス・ルブランの「ルパンシリーズ」、
ガストン・ルルーの『黄色い部屋の謎』を生んだ国なのに、不思議です。
それ以来では、著名なのは一時代後のメグレ警部のシムノンくらい。
フレンチミステリといえば、サスペンス、ロマンス、犯罪小説が主、
とにかくサスペンスがメインで、特に第二次世界大戦後は本格物の
火は消えたとまで言われたそうです。
1980年代後半になってようやくポール・アルテが出た。
このブロクにも書きましたよね、ポール・アルテ。
『第四の扉』はすごいよ。
彼は1988年に『赤い霧』でフランス冒険小説大賞を受賞します。
冒険小説大賞となっていますが、犯罪小説大賞とも訳されて、
広い意味でのミステリ全般に与えられる賞で、
1930年から既に85年の歴史があり、後発のフランス推理小説大賞よりも
権威があると言われています。
1989年には日本の夏樹静子さんが『第三の女』で受賞されています。快挙!
ちなみに1930年の第1回受賞はピエール・ヴェリー『絶版殺人事件』で
本格物です。
1931年第2回もステーマンの『六死人』で本格物。
1938年にはボアロー『三つの消失』本格物。
1948年にはナルスジャック『死者は旅行中』本格物。
そんなもんでしょうか。
今はどれも手に入りにくいものばかり。
ピエール・ヴェリーの『絶版殺人事件』はもう無理です。
何とか手に入る残りの三冊を図書館で借りてきました。
ステーマン、ボアロー、ナルスジャック。
下の『大密室』にボアローの『三つの消失』とナルスジャックの『死者は旅行中』
の2作が入ってます。お得。
3作とも文庫で200ページくらい。ポール・アルテも。
フランスの本格物って読むのにお手頃ですよ。
『六死人』。
6人の若者が未来と成功を求め其々世界へ飛び出します。5年後、成功しても、
失敗しても、帰国して集まり、得たお金を山分けしようと約束します。
期限になって戻ってくる5人。しかし待ち受けていたのは不可能な状況での
連続殺人だった。
なかなかですよ。84年前に書かれたとは思えません。
ただ、やっぱりフランスなんですわ。戯曲と同じ。
フランス人のセリフって、妙にお洒落なんですわ。
フランス戯曲のセリフ。たとえば彼女が好きなら「好き」と言うでしょ。
それを「あの日ニースの浜辺でそよいだ風の香りに似てないかい?」
てなことを言う訳ですわ。
『六死人』でも「今日は、九月の最初の日曜日ですね」なんて言っちゃう訳です。
ベル・ポケット時代の良きフランスの本格ミステリです。
『三つの消失』
伯爵の城館に飾られたダ・ヴィンチの名画をめぐる、衆人観衆の中の消失事件が
3つ立て続けに描かれます。
3作の中ではもっともトリッキーです。
これには恋は出ません。ホントに無駄のないミステリです。
『死者は旅行中』
新聞記者のジルは、アレクサンドリアで出会った女と恋に落ち、
突発的なトラブルから彼女の父が所有する船に乗ります。同じく急を要した
ビップたちも乗り込み、嵐に揺れる船の中から、1人また1人と殺され消え
ていきます。
これが一番楽しかったかな。うん。読み物としても中々でした。
今、フランスは大変です。
フランス喜劇をやっているNLTやボクとしては、少しでもフランスの演劇、
小説をより広めることくらいしか出来ません。
たまにはと思って読んだフレンチミステリ本格物三題。
なかなかでした。
よろしければ是非。
と言っても図書館にしかないしなぁ。
あ、ポール・アルテはハヤカワポケットミステリーから
いっぱい出てます。
ポール・アルテはすごいですよ。
まずは『第四の扉』から。
そうだ! マルセル・F・ラントームがいた!
第二次大戦中の収容所で書かれた幻のミステリー『騙し絵』が!
この作者、収容所で3作を書き、戦後出版されるが、
フランスは本格物が下火で、さして売れず落胆して、それ以外にも書いてた
原稿をみんな燃やして、姿を消した、という、本人も幻の作家です。
日本で出版された2009年、日本の本格ファンは熱狂して迎えました。
創元推理文庫から今でも出ている筈です。
ボクもその時読んでたのに、忘れてたやなんて。年やな。
後の2冊も早く出してくださいまし。
それとノエル・ヴァンドリーも。
2015年11月24日