第1回NLTコメディ新人戯曲賞決定 10月30日

ごあいさつ 池田政之の仕事

 

 

 

 

お待ちどう様でした。

 

第1回NLTコメディ新人戯曲賞が決定いたしました。

 

 

 

 

 

 

本日NLTのホームページにて掲載しましたが、

ボクのホームページにも載せておきますね。

ここで書く事は、審査員一同総意の意見と、僭越ながらボクの個人的考えも

合わせています。ですので気にしたくない方は気にしないでくださいまし。

ちなみにNLTのホームページにはこのトップページからも行けます。

 

 

 

まず7月末の締め切りに11本の応募がありました。

 

1回目でまだ膾炙してないし、1本もこなかったらどないしよという心配は

杞憂でした。

 

応募下さった皆様、ありがとうこざいます。

 

 

審査委員長はNLT代表の川端槇二さん、以下、制作代表の小川浩、

運営委員の加納健次さん、同じく渡辺力さん、小林史、竹内一貴、

企画委員の木村有里さん、そして同じく企画委員のボクの8人です。

 

 

まず、オリジナル性、アイデア、構成展開、文章セリフ、喜劇性、完成度、

そして推敲も加味した可能性の項目で得点をつけていきました。

 

あ、もう一つの重要な審査要素。

募集要項に「正賞作品は2016年に上演」とありましたよね。

つまり我々は上演をも視野に入れて審査をしました。

バーナード・ショウのように文学として読む戯曲ではなく、現実にNLTがコメディ

として板に乗せられるか? ということを視野に入れているわけです。

 

 

ここでひとつ。

規定枚数はA4で40×40で35枚以内です。なのに30枚以下が5作もありました。

勿論短くでも良い作品ならいいのですが、やはり書き込みが足りず、構成展開は

面白いのに中身が薄く、中にはコントの域を出ていないものもありました。

枚数をちゃんと使って書き込めば、ドンデン返しや終盤の展開ももっと盛り上がった

のにと残念です。

 

更には、CМやコントに元ネタを直ぐに見つけられるものは避けて下さいね。

設定があのCМと同じやん、あのコントと同じやん、と思った時点で、ほぼ

アウトです。勿論元ネタをはるかに凌駕する出来なら別ですが、周知のネタ

は既に我々にイメージが出来上がっているのですから、それは至難ですよ。

 

それともう1つ。以前このブログ7月28日『芥川賞とNLT新人賞』でも書き

ましたが、新人のデビュー作って何ともいえない雰囲気があるんですよ。

後で読み返すと、そりゃ赤面するくらい稚拙でも、グイグイくる迫力とか、

怪しげな雰囲気とか、こだわりの文章表現とか………何としてもこの機会を

ものにするぞという気迫でしょうか。『幻神伝』で光文社kappa-one登竜門

受賞デビューした浅田靖丸クンと呑んだ時に、2人して「そうそうそう」と

頷きあいました。又吉クンの『火花』にも感じました。穏やかな大家でも、

デビュー作には決まって感じます。

 

今回、それをボク自身が感じられたのが、1作だけでした。

皆さん器用なんですね。ストーリー展開が普通にうまい。(勿論そのストーリー展開

が面白いか面白くないかは別にして・そのストーリー展開が作劇的に正しいか正しく

ないかは別にして)。

もっとはじけてください。新人らしく「俺が審査会を支配してやる」くらいの気迫を

出してください。

恐らく皆さん今回の応募作が生まれて初めて書いた訳ではないのでしょうね。

5作目10作目だったりするのでしょうね。

慣れてきちゃってるんですよ。その小器用な慣れはいらないのでは、と感じて

しまいました。

生意気言ってすみません。実はボク自身も、29年前2作目の『鷹の玉座』を

読んだ亡き賀原夏子先生に同じことを言われました。今日までの戒めです。

具体的に分からないという方は、直木賞作家・山本一力先生の初めての新人賞

受賞作(オール読物新人賞)短編小説『蒼龍』(文春文庫・表題作)を是非読んでみて

下さい。いろんな意味で具体的ですよ。

 

 

閑話休題。

 

 

点数をつけていくと上位6作と下位5作に、開きが出来ました。

 

 

上位6作で、まず問題となったのは『ダジャレ強盗』でした。

この作品が上位6作に入ったのは、アイデアの点数が一番高かったからで、

しかし、物語の大半を占めるダジャレ連発シーンは、文字で読んでいるか

らダジャレの意味も分かるのですが、セリフで言って耳で聞くと(やってみ

ましたよ)分からないものが多く、現実に上演は難しいとなりました。

潤滑油的にお使いになられるのなら楽しいですが、メインとなると難しい

ですね。残念ながら一次通過にはなりませんでした。

でも、こんなアイデアを思いつかれる方です。力作の応募をお待ちしています。

 

 

よって第一次通過は『あなたの足元お借りします』『アパイピシピテペルプ』

『お皿の前で、ごゆるりと』『スパイミークレイジー』『ダンロッピ!』の

5作となり、改めての審査となりました。

 

 

第2回目の審査です。

 

 

最高点は『あなたの足元お借りします』でした。でもこれは作者が山崎哲史です。

昨年7月NLT新人作家育成プロジェクトvol,1『人質に乾杯』でデビューし、現在

NLTの文芸演出部です。確かにまだ新人ですが、身内から出すのは如何なものか

となり、受賞対象外、つまりは失格となりました。ああ無情。

ですが出来を鑑み、昨年とも併せ、今回のみ第1回目のご祝儀的特例として

審査員特別賞にすることになりました。賞金はナシです。残念。山崎、次からは

余所へ出してな(笑)。

これは劇団でストックしておきます。日の目を見る日は近いと思うよ。でも次か

らは余所へ出してな。しつこいか。

 

この時点で受賞作となる作品はなく、佳作を出すかどうかの検討になりました。

 

次に得点が高かったのが『アパイピシピテペルプ』と

同点で『お皿の前で、ごゆるりと』でした。

 

前者は、丁寧に書かれた家族の風景、落ち着いた筆致、実は、日常のお芝居だと思っ

ていたら、とんでもないところへ持って行かれるのだけれど、それすらサラリとやっ

てのけられました。ただ喜劇性が薄いのでは?との意見もあり、片や、それを補って

余りある世界観があるとの意見もありました。

 

後者は喜劇性のあるよくできた小品です。人物の出し入れもうまいし、小ネタの

ドタバタも楽しい。つまり大ネタの邪魔をしていません。ただもうちょっと書き込ん

でくれていれば。あと5枚余っています。なぜこの事件が起こるのか? 登場人物の

背景を、最初に丁寧に描いてくれていれば、更によくなったはずです。

 

その次が『スパイミークレイジー』でした。これは痛快です。まぁ速い展開。

一体いくつドンデンを出すねん。応募作中もっとも喜劇してましたね。偉い。

ただもっと書き込んでくださいよ。まだ6枚も余ってますよ。

さすがにコントにはならず、演劇の枠内にとどまっていましたからいいものの、

完成度は低くなってしまいます。つまり推敲すれば、楽しい喜劇になる作品でした。

 

最後は『ダンロッピ!』です。不思議な作品でした。

不条理劇、オカルトファンタジーのような導入が、ロベール・トマのように終わる、

中々の構成です。ですが喜劇と呼べるのかどうか。ボクが作家だからかもしれませ

んが、ボクならこうして喜劇にするな、と考えてしまいました。審査員の皆さんも

同意見でしたよ。 

 

 

さて、数時間に及ぶ議論の末、結論が出ました。

 

 

大きくいうと2つです。

 

1つは佳作を出すことになりました。

『アパイピシピテペルプ』と『お皿の前で、ごゆるりと』です。

『アパイ…』のみ、『お皿の…』のみ、2作ともОK、2作ともダメの4択で決を

採り、満場一致で2作とも佳作に決まりました。

おめでとうございます。

 

来年上演する予定です。 

皆様には、詳しいことは後日ホームページでお知らせします。

 

 

さてもう1つは、今回我々は<再応募枠>を作ったことです。

 

文学の新人賞には2種類あります。

既に発表・出版されたものつまりプロ(でもまだ新人の域)の作品からその年のベスト

を選ぶもの(言ってみれば直木賞や芥川賞もそうですね。戯曲なら岸田賞か?)と、

素人さんも含め一般から生原稿を募集しそこから選ぶもの、の2種類です。 

我々や、劇作家協会やテアトロさんの新人賞、テアトルエコーさんの創作戯曲募集

は、みんな後者に当たります。

 

これらは応募された作品を完成本とみなして審査します。

なので審査で「おしいなぁ。ここさえ直せば受賞なのに!」となっても、

それは落選です。

ダントツで面白い作品でも、「ここ一ヶ所間違ってるで」となれば、ボツです。

後はそんな作品なかったことに……

 

でも……

 

おしいなぁ。実に惜しい。

ものすごいダイヤの原石だってあるんですよ。

そんなお宝をみすみすドブに捨てるなんて。

 

それが一般応募型新人賞の宿命です。

 

でも、いい戯曲をさがしてるんでしょ。いい作家を発掘したいんでしょ。

ま、劇作家協会さんは、別にさがしてるわけやないかもしれませんけど。

 

勿論、賞は応募作で決めます。でも「直せばお宝」を捨てるには忍びなく、

そこで我々は<再応募枠>を作りました。つまり、直して、推敲して、

来年、同じ作品でもう一度応募しても構いません─という枠です。

 

以前にもこのブログで書きました。3月16日「横溝正史賞二題」です。

ミステリーの世界では時々起る変な現象。受賞作よりも、後で出版された

落選作の方が名作になる事があると。つまりミステリーの世界では、お宝

の原石を捨て去るなんてことはしないのです。 

村﨑友氏の『夕暮れ密室』が出版された時、その帯に「横溝正史賞落選作」と

堂々と銘打たれていました。ミステリファンは「お、落選作なら読んでみようか」

となるわけです。(冷静に考えたら「そんなバカな」ですけどね)

なれぱ我々だって、我々が原石を持ち磨く行為は、演劇の為でもあるはずです。

 

勿論、推敲した再応募作品と、初応募作品を同列に扱えるのか? という疑問は当然あ

ります。恐らく部門賞を新設すると思いますよ。

 

『スパイミークレイジー』さんと『ダンロッピ!』さん。

今回は落選やけど、よかったら直して来年もう一度応募して下さい。

 

『スパイミークレイジー』さん。事件とストーリー展開とドンデンは十分ですから、

余っている6枚分で、それぞれの人物と、あの部屋のリアル感をもっともっと

書き込んでください。つまり、まず日常感、そして緊張感、さらにだらけ感も、

恋愛感情も、全てです。

 

『ダンロッピ!』さん。余っている5枚分で、主人公の背景(他の登場人物も同様)を

もっと書き込んでください。事件の全容も。それと狂言回しに当たる方(改めて貴方が

こいつと思われる人物でも、更には新しい登場人物でもかまいません)のセリフを

もっとはずませて下さい。喜劇と悲劇が同居する、つまり狂言回しの方の性格や言動

をもっと明るく、お気楽で、ポジティブに。実はダマシでいいのですから。それだけ

でも喜劇度は増すはずです。それだけで結末はもっと驚きをもって迎えることができ

るはずです。

ロベール・トマのように終わると書きましたが、あなたとトマの違いは……

トマはとにかく話が転がります。『シャンブルマンダリン(ホテルZОО)』のような

オムニバスは短いので1ネタで行きますが、中・長編はどんどん話が転がるのです。

一方あなたのはあまり転がりません。それはかまいません。でもその分今のままでは

喜劇性が低いのです。それを解消するのは、人物のキャラ作りしかありません。

狂言回しの人のセリフをはずませれば、というのはそういう意味です。

狂言回しだと思っていた人が実は………ダマシでいいのですから。

 

あ、そうそう。来年から規定枚数がA4で35枚から40枚に増えます。

かなり書き込めますね。

だからといってサイドストーリーなんていりませんからね。アンサンブルコメディ

なら別ですが。

 

お二方とも、もし来年再応募されたら、我々はキチンと読ませて頂きます。

それでも落ちたらごめんやけど。

 

ただ、推敲した作品と初応募作を同列に審査していいのか?という疑問も

当然出てきます。さっき書いたな。もう一度言います。まだ未定ですが恐らく

再応募作品には、それにあう部門賞を新設すると思いますよ。 

 

それ以外の方は同じ作品での再応募はご遠慮くださいまし。

 

 

さて、ここで、劇作のアドバイスを1つ。

ボクでも、年に1度くらいは講演に呼ばれます。持ち時間だいたい1時間半です。

約1時間をテーマに合わせ喋り、残りの30分を質問コーナーにします。皆さん恥

ずかしがって誰も手を挙げません。そこで主催者側に頼んで1人だけサクラを仕

込み、手を挙げて質問をしてもらいます。すると安心なさるのかそこから堰を切

ったように手が上がります。30分はあっという間に終わってしまいます。

その中に決まってある質問。「私も脚本を書いているのですが、どうすればうま

く書けますか」「私も書いてみたいのですがどうすればいいですか」

ボクは隠し事なく、ボク自身が信じているいくつかのコツを正直に話します。

僭越ながら今日はその中から1つだけお話ししますね。残りのコツは又いずれ。

 

皆さんはまだ素人さんです。中にはセミプロの様な方もいらっしゃるかもしれませ

んが、何よりもまずはデビューできなければ始まりません。更に無事デビューして

もプロとして何年何十年と食べていくのはより大変です。実力、努力、感性、性格、

勿論運もあります。

 

あ、そうそう。自分たちで小劇団を作りデビューしてる方もいらっしゃるでしょう。

でも、まだまだ新人さんですよね。

 

そこで先述の新人のデビュー作って、の話ですが……

つまりは応募作に必要なもの、少々破たんしてもいい。何としてもものにするぞ!

という気迫です。その気迫と想いが、作品を〈無難〉より〈大胆〉にさせるので

しょう。

デビュー前(新人)の慣れほど怖いものはありません。それはプロの熟練とは違う

からです。職人技でもないからです。それは現実のキャリアに裏打ちされていな

いからです。

 

デビューできた作品がデビュー作なんです。5作目だろうと10作目だろうと。

自分たちでデビューしても、評価を得なかったら、同じです。

 

初々しさを忘れないでください。熱い思いを、書かずにはいられない衝動を忘れない

でください。それにはどうすればいいのか。

 

〈思い切り〉です。

 

自分が書き上げたものが小さくまとまっていないか。思い切った構成。思い切った

キャラ。思い切った直しに思い切ったカット。書きたいと思ったものを正直に思い

っ切りキーボードにぶつけたか。プロで生き残っていく人は、幾つになって思い切

れる人。ボクはそう信じています。

荒削りでもいいんです。隅々への配慮や、破たん無い展開なんてのは、本数を重ね

れば自然と身に付きます。今は、思い切ったコメディを書いて下さい。

 

だって、〈再応募枠〉が出来たんですから!!!!!!

 

あ、だからと言って思い切った下ネタは止めてくださいね。上演できませんから。

 

それと、あくまでも戯曲という常識的概念の枠内に、そしてストレートのコメディの

枠内に留めて下さいね(笑)。織田信長と坂本竜馬とジョー・ペシとステゴザウルスが

ビキニ姿で火星でゴルフをするなんてのはダメですよ。訳が分かりませんから。スト

レートのコメディというのは、読み手(観客)にキチンと話の意味が分かり、筋が通っ

ている話だという事です。書き手だけが納得できるものはダメです。何なら応募前に

お友達に読んでもらって下さい。意味が分かるかどうか。

あ、ということは、信長と竜馬とジョー・ペシとステゴザウルスが、ビキニで火星で

ゴルフをしても、そうせざるをえない理由がキチンとあって、話が分かればいい訳や

な。思い切ったなぁ。その前に何でジョー・ペシやねん。ビル・マーレーではあかん

のか。そこやね。そこに必然性を持たさんとね。というよりまずつっこむべきはステ

ゴザウルスやろ。

 

 

閑話休題part2。 

 

 

というわけで、結果はこうなりました。

 

 

第1回NLTコメディ新人戯曲賞

   受賞作                なし

   佳作(賞金5万円)               ふじもり夏香さん『アパイピシピテペルプ』

                              大塚祥平さん『お皿の前で、ごゆるりと』

   審査員特別賞(賞金ナシ)       山崎哲史クン『あなたの足元お借りします』

       ※佳作2本は来年NLTで上演します。詳細は後日ホームページに。

 

                  ●

       ※<再応募枠>該当作品     『スパイミークレージー』

                              『ダンロッピ!』

 

 

 

応募された皆様、お疲れ様でした。ありがとうございました。

来年も第2回をやります。才気あふれるコメディ台本を待っています。

 

 

 

 

 

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